一つの作品が完成するには、多くのスタッフの力が必要となる。『コードギアス 反逆のルルーシュ』もまた例外ではない。さまざまなプロフェッショナルの力が一つの結晶となり、『コードギアス』という作品に輝きを宿らせたのである。

誰もが涙するような劇的な場面。でも、その舞台が書き割りにしか見えない安直なものだったり、小道具がちゃちな作りだったとしたら……。視聴者は急に我に返ってしまうに違いない。
 『コードギアス 反逆のルルーシュ』にコンセプトデザインという肩書きで参加した寺岡賢司は、自らの仕事の役割を「ドラマ以外の部分で、作品にもっともらしさを与えること」と説明する。目が肥えた視聴者に納得してもらえるだけのディィールを作品に与え、世界観を構築するのが仕事というわけだ。

 『コードギアス』では、租界の風景から携帯電話まで「未来要素のある大道具や小道具は全部」担当した。デザインは監督の要望を踏まえ、キャッチボールを重ねながらまとめられる。その時に大事なのは、デザイン上ポイントとなる要素を一つに絞り込むこと。

「ポイントが複数あると何を伝えたいデザインなのか、できあがりがぼやけてしまうんです。たとえば租界の風景。あれは内燃機関技術を発達させなかった、電気文明社会というバックボーンを視覚的に伝えるため、立ち並ぶ太陽光発電用のパネルという一点に絞り込んでデザインをしてあります。だからそれ以外の要素、たとえばビルや道路などは、現在の風景とあまり変わらないようにしてあるんです」。

またアニメの特性を生かして、リアリティだけではなくある種のキャラクター性をデザインに付加する場合もある。
「ブリタニア政庁は、最初描いた時はもっと普通の建物でした。
ところが谷口(悟朗)監督から、もっと支配者であるブリタニアという部分を強調してほしいと言われたんです。そこで窓を一切なくして、威圧感のあるデザインにしてみました。あと細部に西洋の城の意匠を取り入れています。ただ窓がないとスケール感が伝わりづらくなるので、その点は美術監督の菱沼由典さんと相談して、小さく見えない背景として仕上げてもらいました」

 現実に存在しない風景やメカなどをデザインすることの多い寺岡だが、大事にしているのはむしろ「想像では描かない」ことだという。
「デザイナーだったら誰でもやっていることだと思うんですが、実物があるならまず実物を調べてみる。実物の構造や細部を把握した上で、アニメーション用のデザインとして作品の方向性に合わせた絵にしていくんです」

 だから日頃の観察は欠かせない。
「雑誌の写真も参考にはしますが、やはり、本物をみるのが一番。たとえば自衛隊の各基地で行われる基地祭や航空祭にはできるだけ足を運ぶようにしています。今年は忙しくて今のところ、基地祭にはあまり足を運べていないんですが、秋からの航空祭にはなんとか足を運べたらと思っています」  
 実物へのこだわりと、それをデザインに昇華するテクニック。その二つが作品にリアリティを与えるプロの技の正体なのだ。