―『コードギアス 亡国のアキト』がついに完成しました。まずその感想から教えてください。
正直、作っている間はかなり不安でした。でも、完成した作品を見てようやく、これでよかったかな、と安心できましたね。後は劇場でご覧になった皆さんに楽しんでいただければうれしいのですが。
―『アキト』を制作する上で苦労されたことはどこだったのでしょうか。
キャラクターもストーリーもゼロから作らなくてはいけないけれど、作品の雰囲気みたいなものはどこか近づけないといけない。そこが難しかったです。完全オリジナルならまだ融通がきくのですが(笑)。キャラクターのバランスひとつとっても、これでいいのかどうか。河口プロデューサーやほかの方も「自由にやっていいです」と言ってはくれているのですが、『コードギアス』というファンも大勢いる世界ができている以上、まったく自由というわけにもいかないだろう、と。『反逆のルルーシュ』と『亡国のアキト』との距離感をどうとったらいいのか、そこが一番の悩みどころでしたね。これはもう文字だけで考えていてもどうにもならない問題で、絵がついて、音楽がきて、セリフをはめてみて、それでようやく、自分が考えてきたことが間違ってはいないな、と確信できるようになりました。その分、絵コンテに時間がかかって怒られたりもしたんですけど(笑)、やっぱりそう簡単にできるものじゃないんですよね。
―そもそも『コードギアス』という世界観のどこに魅力があると感じましたか?
前作の『反逆のルルーシュ』で気に入っているのが、日本がブリタニアに占領され世界から消されてしまったということです。河口PDからは最初、ユーロピア共和国連合(E.U.)の人間を主人公にしたらどうかという提案もあったのですが、やはりここは日本人=イレヴンでいきたい、と。そうやってアキトという主人公が出来上がりました。
―『アキト』のチャレンジといえば、ナイトメアフレームを描くのに3DCGを使っているところです。
河口PDのほうから「今回の作品は、ナイトメアフレームのシーンで3DCGに挑戦してみてくれないか」と...。だから3DCGアニメーションディレクターの井野元英二くんに仕事を依頼しました。彼とは10年来の付き合いがあり、自分として絶対の信頼感があります。
―今回の3DCGのポイントはどこでしょうか?
実写映画で用いられるCG手法でもなく、単なるセル画の代用でもない。手描きのアニメ表現を取り込んだ、新たな3DCG表現をしてもらいました。これを最大限に活かせるようにと考え、アクションシーンでは、複雑なカメラワークによる長回しや、1カットに5アクションぐらい盛り込む、といったことに挑戦しています。舞台設定も水辺を入れて、アレクサンダが動くたびに水しぶきがあがるという難易度の高い設定にしてみました。井野元くんには「難しかったら、普通の地面でもいいから」といったんですが、きっちり水面になってました(笑)。彼がスゴイことの一つは、水しぶきや爆発などのエフェクトもきっちり3DCGで描けちゃうところです。今回は2Dのアニメーターさんがラフ原画を描くこともなく、絵コンテから直接、井野元くんがアクションをつけてくれました。3DCGを使ったことにより、今回の目標である新しい映像は、かなりの完成度で実現できたと思います。
―では後編はキャラクターのことについて聞かせてください。
―入野自由さん、坂本真綾さんともに赤根監督の過去作に出演されたことがありますが、今回のキャスティングの決め手はなんだったのでしょうか。
今回は全4章と短いので、キャラクターと役者さんが一緒に成長していくということはできないな、と思ったんです。だから、最初から自分で望んだ役柄を表現してくださる人に演じてほしかったんです。そこでアキトを入野さん、レイラは坂本さん、ほかメインキャラクターの多くも、こちらからお願いしました。僕は以前から入野さんの声は、とてもクールな、世間を達観したような雰囲気を持っていると感じていたんです。もしかしたら入野さんは、普通の少年役という印象が強いのかもしれませんが、僕としてはかなり自然な結論として、アキトを入野さんにお願いすることにしました。坂本さんは、演技勘のよさもありますが、なんといっても声から、高潔で意志の強いところが感じられることが理由です。それらを併せ持つ“お姫様”を感じさせる声、お芝居ができる人といえば、僕にとっては坂本さん以外にいませんでした。
―オーディションで決まった方によって、広がったキャラクターもいますか?
佐山リョウは日野聡さんのおかげで、チンピラっぽさよりピュアさが出て、ぐっと魅力的なキャラクターになりましたね。成瀬ユキヤの松岡禎丞さんは、短い時間の中でユキヤというキャラクターを的確に把握してくれて、存在感が増しました。あと、香坂アヤノの日笠陽子さんは、神秘的な少女を演じてくれました。今後、アヤノというキャラクターがどう成長していくのかが楽しみです。
―CLAMPさんのキャラクターを演出していかがだったでしょうか?
とても華があって、一目でこれが主人公! これがヒロイン! とわかる力がありますよね。目力がある、とでもいえばいいかな。とても存在感のあるキャラクターを描いていただきました。僕は、少女マンガの持つ古きよき時代の純文学的な要素というのが好きなんですが、僕のそういう部分とCLAMPさんのキャラクターは相性がいいと感じました。
―少女漫画の純文学的要素ですか。
そうです。少女マンガというのはこれまで、「自分は何者なのか」「自分は生きていていいのかという問いかけを描いてきていて、それは実写よりも、アニメというメディアの方が親和性の高いテーマだと僕は思っているんです。で、CLAMPさんのキャラクターの魅力的なところは、少年マンガテイストと少女マンガテイストの両方を持っているところなんです。『反逆のルルーシュ』は、その少年マンガ的な部分にフォーカスして作られていましたが、『亡国のアキト』は少女マンガ的な要素のほうに寄り添って作りたいと考えています。
―パリの市街など風景を印象的に見せるカットも多いと思いました。
やはりキャラクターを形作るのはその環境なので、そういう風景をしっかり見せたいというのはありました。あと『反逆のルルーシュ』と違い、ヨーロッパが舞台だというところも強調しておきたかった。ただこうやって見せてみると、歴史を感じさせるさまざまな建築物がそのまま現代の風景の中に混ざり合っているという点では、案外、日本とヨーロッパは似ているな、とは感じました。アメリカの持っている人工的な感じとは異なりますね。
―第2章ではC.C.やスザクの登場が予告されています。
僕は『反逆のルルーシュ』の中ではスザクというキャラクターに興味を持ちました。日本の首相の息子でありながら、祖国を占領した神聖ブリタニア帝国の兵士となっている。彼はその矛盾と常に向かい合わなくてはならないし、さらに親友ルルーシュがゼロだということまでをも知ることになる。その苦しみというのは、他人が絶対理解できないようなレベルにあると思うんです。だから、僕は苦悩するスザクを……あ、これ以上言うと、ネタバレになっちゃいますね(笑)
―(笑)第2章はいつごろ見られそうですか?
来年前半にはお見せできるよう頑張りたいと思っています。楽しみにお待ちいただければと思います。